布川事件、再審が決定 「自白と殺害状況に矛盾」
再審が決定し、握手する杉山卓男さん(右)と桜井昌司さん=21日午前10時8分、茨城県土浦市中央1丁目で
茨城県利根町で1967年8月、大工の男性(当時62)が絞殺され、現金が奪われた「布川(ふかわ)事件」で、強盗殺人罪に問われ無期懲役刑が確定し、仮出所した桜井昌司さん(58)と杉山卓男さん(59)の第2次再審請求で、水戸地裁土浦支部(彦坂孝孔裁判長)は21日、再審開始を決定した。弁護側が提出した新証拠で、確定判決が認定した殺害方法に疑いが出たと判断。「無罪を言い渡すべき明らかな証拠を新たに発見した」と述べた。検察側は決定を不服として即時抗告する見通しだ。
最高裁によると死刑・無期懲役の確定判決が出たケースで再審決定が認められたのは戦後8件目(死刑事件で5件、無期懲役事件で3件)で、4月の名張毒ブドウ酒事件以来。
決定で彦坂裁判長は「自白の枢要部分の殺害方法は実際の死体の状況と矛盾する可能性が高く、目撃証言も信用性に疑問がある」と指摘。「新証拠が確定判決を下した裁判所の審理中に提出されていれば、有罪認定に合理的疑いが生じた」と述べた。
この事件では物証がなく、犯行を認めた捜査段階の自白が有罪認定の最大の根拠だった。
弁護側は第2次再審請求で自白と客観的な状況との矛盾を指摘。「首を圧迫した場合はのどの軟骨の骨折などが高頻度で見られるが、被害者に特徴的な所見は認められない」とし、「両手でのどを圧迫して窒息死させた」とする確定判決認定の殺害方法に反論する鑑定書など計106の新証拠を提出し、自白や目撃証言の信用性を争った。
確定判決は、2人は67年8月28日夜、遊ぶ金欲しさから知人だった被害者宅に上がり込んで借金を申し出たが、断られたため殺害して現金約10万7000円を奪ったと認定していた。
事件は日本弁護士連合会が冤罪の疑いがあるとして調査に乗り出し、最高裁で判決が確定した約5年後の83年12月に再審請求したが、一、二審ともに退けられ、最高裁も92年に特別抗告を棄却した。2人は仮出所後の2001年12月、第2次再審請求を申し立てた。
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〈キーワード・布川事件〉
1967年、茨城県利根町布川で大工玉村象天さん(当時62)が絞殺され、現金が盗まれた強盗殺人事件。その後、別の容疑で逮捕された桜井さんと杉山さんが犯行を自供したが、公判ではともに「自白を強要された」と無実を主張した。水戸地裁土浦支部は70年、2人に無期懲役を言い渡し、判決は78年、最高裁で確定。再審請求も92年、最高裁が特別抗告を棄却した。
asahi.com 社会 > 裁判 2005年09月21日12時40分